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炭酸水素塩入浴剤による毛髪シャンプーの保護効果

炭酸水素塩入浴剤による毛髪シャンプーの保護効果

1. プロローグ

 粉体化粧品の開発に用いられる加工プロセスや機器評価方法について,基礎から応用まで関連技術を幅広く紹介してきた。今回は,メイクアップ品とは異なる化粧用途にも焦点をあててみたい。無機粉体を造粒してつくられる入浴剤による,毛髪に対する美容効果である。
 シャンプー後にリンスやトリートメントを行うのが,一般的な洗髪方法である。頭皮や髪に付着した余分な皮脂や塵芥を洗い流すために用いるシャンプーは,界面活性剤により油脂成分を溶かしだす機能に優れる。だが,シャンプーはウロコ状に重なりあうキューティクルを密着する脂質も溶解し,緩んだキューティクルが僅かに剥離しささくれだつ。するとキューティクルの隙間から,毛髪内部のミネラルや蛋白質や脂質が溶出するのである。
 リンスやコンディショナーなどのトリートメントは,毛髪面を滑らかにしてツヤを与え,櫛通りをよくする効果をもたらす。シャンプーで傷んだ髪のキューティクルを修復し,毛髪の外観を整えるのである。
 髪を傷めないようにするためには,シャンプーの洗浄力を適度に抑え,洗髪時の使用量を減らす手法も考えられる。だが,シャンプーは洗髪中の泡立ちが嗜好性や使用感を左右する製剤である。シャンプーの起泡力が弱いと洗髪行為の達成感や満足感が得られず,製品のブランドイメージを損なう一因となるのである。
 シャンプーの起泡を妨げる主な要因は,髪や頭皮に含浸した過剰な皮脂成分である。たとえば,髪を二度洗いすると泡立ちがよくなるのは,一度目の洗髪で髪や頭皮の余分な皮脂が除去されるためである。一度目に十分な泡立ちが得られないと,余分な皮脂が残存しているのではないかと懸念される。そこで再度シャンプーを行う。すると,キューティクルや頭皮の表層に積層した細胞間の脂質も溶かし出してしまい,バリア機能が低下する。その結果,髪や頭皮の乾燥や表層荒れを引き起こすのである。
 一方,ナトリウム—炭酸水素塩泉などの弱アルカリ温泉は“美人の湯”とも呼ばれ,肌がスベスベになる効果や,肌の健康状態を改善する効果が知られている。阿部寛主演による温泉を主題とした話題の映画“テルマエ・ロマエ”でも,戦場で負傷した兵士たちを湯治し,ローマ軍を勝利へと導いたのは炭酸泉と目される天然温泉であった。
 天然温泉事業は環境省の管轄であり,温泉法第18条により成分掲示が義務づけられている。だが,温泉の大部分の効能や効果は環境省も厚生労働省も管轄していないため,各都道府県知事が社会的通念に基づき認定しているのが実状である。
 それ故,各種温泉による怪我や病気の治癒効果には諸説あるが,ほとんどの場合詳しいメカニズムの解析は進んでいない。一般論としては,入浴により身体が温まるとともに,水中で浮力を得ると重力から解放されるためリラックスして気分が軽くなる。すると,緊張感やストレスも緩和されるため,自律神経のバランスがよくなり,副交感神経が優位となり血管が弛緩し血流が改善する。その結果,肌への栄養素の供給や老廃物の除去作用が増進し,温泉による治癒効果が高まると考えられている1)
 これらの温浴効果に加え,炭酸泉や炭酸水素塩泉は皮膚を透過した炭酸ガス(炭酸水素イオン)が血中の炭酸ガス濃度を高め2),軽い運動をした時のような状態をつくると考えられている。その結果,血液中に酸素を多く取り込もうとして自律神経が働くため,血管を拡張し血流を高めると言われる。それ故,炭酸泉の湯につかると血流を介した皮膚組織への栄養補給や老廃物の除去効果が増進し3),肌の美容効果が得られるのである。という温泉や入浴剤の効能メカニズムと価値観が,社会に広く浸透している。
 このように美容効果をもたらすと考えられている炭酸水素塩入浴剤は,皮膚と同様に毛髪に対しても美容効果をもたらすことが期待されている。毛髪の表層を構成するキューティクルは,肌の角質細胞と同様にシート状のケラチンタンパク質が重なりあって形成されている。したがって,温泉がもたらす肌の健康に対する生理学的な効果や物理化学的な反応は,毛髪に対しても同様に作用することが期待されるのである。

2. 毛髪の構造と機能

図1 毛髪の構造と成分

 図1に毛髪の構造と構成成分の組成の概要を示した。毛髪は外側から順に毛小皮(キューティクル),毛皮質(コルテックス),毛髄質(メデュラ)の3層構造からなり,ケラチンタンパク質が約80%を占め,約12%の水分とメラニン色素,脂質,微量元素で構成されている。キューティクル層は,硬質なケラチンのシートが4〜8枚ずつウロコ状に重なりあってバリア層を形成しており,毛髪に光沢や滑らかな手触り感を与え,櫛通りをよくする。また,ブラッシング等の物理的刺激や,水や薬剤に対する化学的刺激から髪の内部を守るはたらきをしている。
 毛髪ケラチンは硬いシート状であり,表皮の角質層を形成する軟質ケラチンとは物性が異なる。両者の硬さの違いは,主にケラチンタンパク質の分子構造中にあるS-S結合の数の違いに依存する。毛髪の硬質ケラチンタンパク質を構成するアミノ酸は2分子のシステインがS-S結合でつながったシスチンを約17%含むが,表皮の軟質ケラチンはシスチンを約4%しか含まず,セリンが約17%含まれる。セリンは, システインのチオール基(-SH)が水酸基(-OH)に置換したアミノ酸である。
 一方,毛髪ケラチンのセリン含有率は7%と低い。その他のアミノ酸の組成比は両者とも大差がないため,S-S結合をもつシスチンと,その代替アミノ酸であるセリンの含有率の違いが,ケラチンタンパク質の硬さの違いの主因となっているのである。
 キューティクル層のシートとシートの隙間は細胞膜複合体(CMC)が埋めており,CMC層にはタンパク質結合脂肪酸・セラミド・コレステロールなどの脂質成分が,疎水性膜とその膜を貫く親水性の透過孔を形成し,水分を保持する作用や水や薬剤の通り道となっている4)。
 このように脂質を主成分とするCMCが,ウロコ状に重なりあう硬質ケラチンのシートの隙間を充填し,ケラチンシートを互いに密着することで,髪の表層に硬い保護膜を形成している。キューティクルのウロコ状の皮膜構造が整っていると,ツヤのある外観や張りのある物性が得られるのである。
 キューティクルに覆われた毛髪内部のコルテックスは,繊維状の皮質細胞(フィブリル)と間充物質(マトリックス)からできており,毛髪を黒褐色に染めるメラニン色素も含まれている。間充物質はフィブリルとフィブリルの間を充填し,繊維を束ねて太くし強度を与えるとともに弾性としなやかさを与え,毛髪の水分保持を担う。
 毛髪の中空構造を形成するメデュラは毛髪の中心部にあるが,細い髪にはない場合もある。毛髪の中空構造は,弾力や柔軟性を与える効果をもたらす。また,中空構造が比表面積を拡張することで,空気と毛髪の間の屈折率差による紫外線散乱効果を高める。それ故, メデュラが形成されたと思われる。
 すなわち,頭頂部の毛髪は太陽から降り注ぐ人体に有害な紫外線を防御するために,表皮よりも高濃度にメラニンを含有し遮蔽力を高める必要がある。また,赤道直下の紫外線量が多い地域で進化した人類の毛髪は直毛にならず,細かなチリチリの縮み毛を形成する。縮み毛構造は,直毛よりも紫外線の散乱度を増し遮蔽力を高める効果が得られる。同様に毛髪メデュラの中空構造は比表面積を増すため,紫外線の遮蔽効果が高まると考察される(筆者説)。

3. シャンプーの役割と配合成分

 洗髪に用いるシャンプー剤は,頭皮や髪に付着した汚れを洗浄し,フケやかゆみを抑え清潔に保つために用いる頭髪用化粧品である。図2に頭皮と髪の構造の概要図を示した。毛包の中腹に皮脂腺があり,ここから分泌された皮脂液は表皮やキューティクルの表層に浸潤し,細胞間脂質とともに疎水性皮膜の形成を担う。この疎水性皮膜が,表皮や髪の水分の蒸散を防ぐのである。

図2 頭皮と毛髪組織の構造

   表皮の基底層では,ほぼ一日に一層のペースで角化細胞が誕生し表皮を押し上げており,約2週間かけて角質層に達した細胞が脱核し,扁平シート状のケラチンを主成分とした角質細胞になる。そして,さらに2週間かけて最外層に達した後,剥離し落屑する。このため,頭皮では角質層から剥離した細胞間脂質を含む落屑片が常に生み出されており,これらを餌にする雑菌が繁殖し,腐敗臭やフケやかゆみや炎症を起因する。これらの脂溶性の汚れや角質層の落屑を洗浄除去するために,油脂を水中に溶解する作用をもつ界面活性剤を含むシャンプーが用いられるのである。
 シャンプーの界面活性剤の強い洗浄作用は,キューティクルのCMC層や頭皮の脂質成分も部分的に溶解する。皮膚の水分保持の役割を担う細胞間脂質を失った頭皮は,かさかさに乾燥しやすくなる。また,CMC層が溶解すると,キューティクルの結合成分が失われるためケラチンシートがささくれだち,毛髪内部の成分が溶出しやすくなる。このようなシャンプー洗髪後に髪や頭皮に栄養成分を補い,キューティクル層や角質層を整えるために,リンスやコンディショナーによるトリートメントが必要となるのである。
 表1にシャンプーの構成成分,表2にトリーメントの構成成分の概要をまとめた4)。シャンプーにもトリートメントにも,毛髪や頭皮を保護するための油剤や表面被覆剤が多数配合されている。すなわち,シャンプーの強い洗浄力が,髪や頭皮を傷めていることが理解できる。そこで,シャンプー洗髪時にキューティクルのCMC層や頭皮の脂質層を保護するために,炭酸水素塩入浴剤を用いてプレ洗髪を行う効果を検証した結果を紹介しよう。

表1 シャンプーの配合成分例
表2 トリートメント剤の配合成分例

4. 炭酸水素塩入浴剤によるプレ洗髪の保護効果

 炭酸水素塩入浴剤により肌がスベスベになる,肌が健康的になるなどの官能的効果を,消費者は期待している。そこで,炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を主成分とした入浴剤による毛髪のスベスベ効果に着目し,実験による検証を行った結果を紹介する。
 図3に実験方法を,図4に実験に用いた市販の炭酸水素塩入浴剤を示す。入浴剤を溶解した湯でプレ洗髪したのちシャンプーとリンスを行い,通常の洗髪法と比較した。

図3 炭酸水素塩入浴剤によるプレ洗髪の保護効果の実験手順, 図4 実験に用いた市販の炭酸水素塩入浴剤(商品名:BadenTab)

 表3は,炭酸水素塩入浴剤Baden Tabの配合成分である。炭酸水素ナトリウムを主成分とし,クエン酸やコハク酸を配合することで溶解時のpHを7.5付近に調整し,皮膚に馴染みやすいことを特長としており,毛髪に対しても各種イオン成分が脂質成分と反応することで,キューティクルの保護効果が得られると推測される。

表3 実験に用いた炭酸水素塩入浴剤の配合成分

実験には,染毛歴のない十代の女性の健康的な黒褐色の毛髪を用いることとし,通常の昼間の日常生活により皮脂を適度に吸収した状態の毛髪を日没後に採取して使用した。
 毛髪のスベスベ効果は,洗髪手順のステップごとに毛髪サンプルを回収し,毛髪面の動摩擦係数(MIU)を測定し比較した。
 図5にMIU測定実験装置の写真を示す。MIU測定に用いた毛髪サンプルは,2㎜間隔で刻みを入れた長さ7㎝の厚紙を基板として毛髪を数本ロール状に巻いて調製した(図6)。

図5 毛髪の動摩擦係数の測定に用いた実験装置, 図6 毛髪の動摩擦係数測定用試料

 MIU測定は,毛髪の毛根側から先端側の一方向の滑り性を比較した。接触端子は5㎜幅の角型を用い,図6に示すように毛髪3本の上に端子を載せて滑らせることでMIUを測定した。1つのサンプルで3箇所滑り位置を変え,洗髪ステップ毎に毛髪サンプルを3セット測定し,合計9回の測定平均値を比較した。
 図7は,毛髪の表面状態を低真空走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像例を示す。ケラチンシートがウロコ状に積層した毛髪の最外層では,脂肪酸とケラチンタンパク質が強固に結合し,硬い保護膜を形成する。だが,同画像の上部にはケラチンシートが部分的に剥がれ,保護膜が損傷している様子が判別できる。
 このような表層の損傷が,毛髪内部の栄養成分の溶出や結合層の溶解を促し,毛髪のダメージを加速するのである。

図7 キューティクルの走査型電子顕微鏡画像

5. 炭酸水素塩入浴剤による洗髪保護効果の解析

 図8は,通常の洗髪方法における洗髪前,シャンプー洗髪後,リンス処理後に回収した毛髪サンプルのSEM画像を示す。洗髪前はキューティクル層が整ったウロコ状構造を示しているが,シャンプー洗髪後の毛髪はウロコ状のケラチンシートの端面が僅かに浮きあがっていることが分かる。これは,シャンプー洗髪によりキューティクルのCMC層が溶離し,接着力が脆弱化したことが原因であると考察される。
 次に,リンス処理後の毛髪面を観察すると,部分的に荒れた表面が観察される。リンス中にはアルキル変性四級アミンなど,毛髪の表面に吸着し滑沢性を与える成分が含まれており,これらのリンス成分がキューティクルの荒れた面に吸着したために,荒れた面がいっそう浮き彫りになったと思われる。

図8 通常洗髪法によるシャンプーとリンス後の毛髪の外観

 これに対し,炭酸水素塩入浴剤を溶かした湯でプレ洗髪したのち,シャンプー洗髪とリンス処理を行ったときの毛髪の観察画像を図9に示した。炭酸水素塩入浴剤の溶解水でプレ洗髪した髪は,プレ洗髪後とシャンプー洗髪後の両者ともにウロコ状のキューティクルが整然としており,剥離や表層の乱れもほとんどないようである。また,リンス処理後の毛髪の状態も同様にキューティクルが整っていることが分かる。

図9 炭酸水素塩プレ洗髪を経たシャンプーとリンス後の毛髪の外観

 このような毛髪表層の安定化のメカニズムを解析するために,プレ洗髪を経たシャンプー後のキューティクルの表面の微細構造を観察した画像を図10に示す。

図10 炭酸水素塩入浴剤プレ洗髪を経たシャンプー後のキューティクルに付着した微粒子

 画像から分かるように,キューティクルの薄片状のシートが重なり合うウロコ状の段差に沿って,微細な固形粒子が点在している部分があることが判明した。これらの微粒子の組成は未同定だが,炭酸水素塩入浴剤が溶解して生成した未溶解物や,あるいは微細化した固形粒子表層が毛髪の皮脂成分やシャンプー成分などと結合し,不溶化したものであると思われる。
 一方,リンス処理したのちすすぎ洗いした毛髪のキューティクル面には,これらの微粒子を観察することができなかった。
 以上の結果,炭酸水素塩入浴剤を用いてプレ洗髪すると,キューティクル表面を配合成分が被覆し,シャンプーの洗浄作用を整える効果があると考察される。また,プレ洗髪した場合でもシャンプー洗髪時には適度な起泡力が維持されることが分かった。

図11 洗髪ステップ毎の毛髪の動摩擦係数(MIU)の変化

 図11は,MIUの測定結果を示す。プレ洗髪を経ない通常のシャンプー洗髪では,シャンプー後の毛髪のMIUが顕著に増大し,滑らかさが喪失したことが確認できる。次いで,リンス処理後には洗浄前よりもMIUが低い水準に達し,滑らかな手触りや櫛通りが回復したことが分かる。これは,主にリンス成分のアルキル変性四級アミンが毛髪表面に吸着することでもたらされる滑沢効果である5)
 これに対し,炭酸水素塩でプレ洗髪を経た髪は,洗髪前よりもMIUが増大しており,この時点ですでに皮脂成分などが除去されて,滑沢性が低下したことが推定される。
 だが,プレ洗髪を経てシャンプーを行った場合にはMIUはプレ洗髪後よりも低下しており,プレ洗髪を経ない通常のシャンプー洗髪の後のMIUの顕著な増大とは異なる様相を示した。
 この結果は, プレ洗髪で使用した炭酸水素塩の成分が, シャンプー後の毛髪の滑りやすさに関与したことを示唆する。
 一方, このようなプレ洗髪を経た後にシャンプー洗髪し, 最後にリンス処理で仕上げた髪のMIUは,通常洗髪のリンス仕上げの髪のMIUとほぼ同等となった。すなわち, 炭酸水素塩でプレ洗髪を経た場合でも,最終的には通常洗髪と同等の滑り性が得られることが明らかとなった。
 以上の結果を整理すると,炭酸水素塩入浴剤によるプレ洗髪の効果として,以下の結論が導かれる。
(1) 炭酸水素塩入浴剤を用いたプレ洗髪は,キューティクルに対するシャンプー時の脱脂洗浄作用を緩和し、キューティクル層の剥離と内容物の溶出を防ぐ効果をもたらす。
(2) 洗髪後の髪の表面の滑らかさは,プレ洗髪の有無にかかわらずリンスの被覆層がもたらす効果であり、シャンプー洗髪時のキューティクル層のシートの僅かな剥離を修復する効果をもたらすと期待される。だが、顕著な形状変化を伴うキューティクルのダメージの回復効果は乏しいと考察される。

〈完〉

〈参 考 文 献〉

1) H.G.Pratzel, 温泉学的に活性化された皮膚の機能とその臨床効果,日温気物医誌,57 (1),11-13,1993
2) 前田真治,齋藤雅人,池本毅,ラズベリーケトン浴の皮膚血流量,内分泌系に与える影響,日温気物医誌,67 (4),215-224,2004
3) 松原勇,温泉を利用した健康増進についての包括的考察,国内の最近25年の論文の紹介を中心に,石川看護雑誌,7, 97-107,2010
4) 髪工房,床松HP等を編集
5) 特開 JP2006-36981

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